なぜ攻めがるたが「基本」なのか?

競技かるたでは攻めがるた(相手陣を積極的に狙うスタイルのこと)が一般的です。

かるた会、練習会などによって方針は色々違うので、もしかしたら「自分のところでは守りがるたが一般的です。」というところもあるかとは思いますが、多くのかるた会(8、9割ほど)では攻めがるたを指導していることかと思います。

ではなぜ攻めがるたが基本なのか?

相手陣を取っても自陣を取っても減る札の枚数は同じなのだからどちらでも構わないんじゃないのか?

今回は攻めがるたが基本とされる理由について簡単にご説明しようと思います。

 

初心者は守りがちになってしまう

まず1つ目の理由として「初心者は守りがちになってしまう」というものが挙げられます。

初心者はどうしても実力では劣るので、簡単に取ることのできる自陣、特に手元に近い下段の札を守ってしまう傾向にあります。

もちろん自陣を取ることも大切な練習ですし、経験にはなりますが、そればかり重ねていると一向に相手陣を取ることができなくなってしまいますよね。

そのため、初心者には攻めがるたを意識してもらうことで、偏らず全般的に札を取ってもらいたいという指導側の意図があるのです。

 

送り札によって陣形を整えることができる

先ほどの理由は競技かるたを初めて間もない初心者に関してですが、ここからはもう少し高いレベルの選手に関してです。

まず攻めがるたでは相手陣を積極的に取るため、守りがるたと比べて送り札の回数が増えます。

そのため、自陣の札が良い陣形じゃない時でも送り札によってどんどん自陣を調整し、自分の取りやすい形に変えていくことができるのです。

また、得意札を送るなどして、相手陣に関してもある程度自分の望む形にすることができます。

一方、守りがるたは自陣を中心に取るスタイルですが、守りがるたをしているとなかなか送り札に恵まれず自陣を自分の好きな形にすることが難しいため、初心者向きとは言えないかと思います。

 

攻めがるたの方が戦術がシンプルである

戦術としては攻めがるたの方がシンプルです。

攻めがるたは

相手陣を取って→送り札をして→その札をまた相手陣で取って→また送って…

と、送り札によってどんどん自分のペースにしていくスタイルです。

相手陣の札、特に自分が送った札をしっかり取るというシンプルな目的で試合を進めていけばいいため、初心者も取るべき札がどれか悩むことがありませんし、取りたい札を送ればいいので送り札も簡単です。

一方守りがるたは自陣の札を中心に守りつつも、要所や相手の隙をついて攻めるという比較的高度なプレーが要求されます。(守りがるたは自陣だけ取ればいいわけではない!)

初心者には「とりあえず攻める」攻めがるたの方が実は簡単なのです。

 

友札は攻めた方が有利

これが攻めがるたが基本とされる最も重要な理由と言っても過言ではありません。

友札(途中まで同じ音で始まる札)を取る場合、自陣から行くよりも相手陣から行った方が大抵の場合は有利です。

なぜ相手陣から行った方が有利なのか?

友札がそれぞれの陣に1枚ずつあるシンプルな分かれ方の場合を想定してみてください。

まずお互いが攻めた場合。

この場合は自分が攻めている方の札が出れば取ることができ、逆に自陣の方が出札だった場合は相手に取られます。

そのため、自分が取る確率は相手陣が出るかどうかなので約50%ということになります。

(お互いが守るというケースは攻めがるたを基本としている競技かるたの世界ではかなり稀なケースですが、こちらについてもお互いが攻めたのと同じようにどちらが出るのか、という出たとこ勝負であることには変わりないので札を取れる確率は50%ということになります。)

では次に片方の選手が攻め、もう片方の選手が守った場合。

お互いが先に取りに行った札(ここでは手前側の札)は手元からの距離が近い分やや自陣の選手、つまり守った方の選手がやや有利かなと思います。

選手同士の力関係や、札の位置にもよりますが、6〜7割守った方が有利かな、と思います。

しかし問題なのはどちらも取りに行かなかった札(ここでは奥の札)です。

攻めている方の選手は戻り手によって素早く自陣を取ることができますが、守った方の選手は自陣に手を出した後に遠い相手陣に手を伸ばすという不恰好な動きをすることになります。(実際にやってみると攻めて戻るより、守って攻めるのが大変なのが分かると思います。)

そのため、攻め戻りの選手が9割以上の確率で取るということになります。

結果として攻めた選手は、相手陣40%+自陣90%

守った側の選手は、相手陣10%+自陣60%

ということで、先に攻めた選手が札を取る確率が65%、守った選手が35%とかなりの差が生まれてしまうのです。

相手の意表を突くために「あえて」友札を自陣から取りに行くという高度な戦い方もありますが、上級者になるまではまずは基本を押さえて攻めるようにした方がいいでしょう。

 

制空権を得ることができる

攻めがるたの場合は場所が遠い相手陣の札を狙うため、決まり字が読まれる前の段階から積極的に前に前に手を出していくことになります。

反対に守りがるたの場合は手元に近い自陣の札を取るために、あまり早い段階では手を出しません。(あまり先に手を出してしまうとバランスが崩れてしまうので。)

つまり攻めがるたの方がどんどん手を出していくというスタイルなのです。

先に手を出すと、制空権を得ることができるので、自分は自由に動け、相手は自分の手が邪魔で動きにくいという理想的な状態にすることができるのです。(もちろん邪魔するために手を出しているのは少数派だとは思いますが、それでも手を出されると邪魔ではある。)

とにかく闇雲に手を出せばいいというわけではありませんが、正しいタイミングで、的確な場所に手を伸ばしていれば、決まり字が読まれた瞬間に自分の方が有利な状態を作ることができます。

 

相手の感じを消すことができる

先ほどの制空権と似ていますが、攻めがるたは手を積極的に相手陣に出していくスタイルなので、相手の感じを消すことができます。

「感じ」とは札が詠まれる時の音に対する反応のことですが、相手が鋭く手を出してくると、それに影響されて一瞬反応が鈍くなる現象があります。

自分の手によって相手の反応を鈍らせることを「感じを消す」と言います。

もちろん攻めがるたの選手でも自ら狙って相手の感じを消すことはなかなか無いとは思いますが、自分が出した手がいい感じで相手の感じを消すこともあり、そういう積み重ねが試合を有利に進めていくのです。

 

大会で大差をつけやすい

最後に戦術的な部分からは少し離れますが、攻めがるたの有利な点として、枚数差をつけやすいというメリットがあるので一応これについても。

守りがるたの場合は、自分が優勢に試合を進めてリードしていくと、自分が本来取りたい自陣の札がどんどん減ってきてしまい、かえって取りにくい状態になってしまいます。

一方攻めがるたの場合は、リードしていればどんどん相手陣が出る確率が上がっていく(自陣が少なくなっている)ので、流れをつかみやすく、大差で勝ちやすいという特徴があります。

近年の競技かるたの大会は、競技かるたブームの影響もあり、参加者が非常に多いです。

一試合にかかる時間も長くなりがちですし、優勝までの試合数も多くなりがちです。

そうした中で勝ち進むためには、勝てる試合ではしっかりと枚数差をつけ、体力を温存することが必須になってきます。

攻めがるたの大差をつけやすいという特徴は、大会で優勝を目指す上では有利に働くと思います。

 

まとめ

今回は「なぜ競技かるたでは攻めがるたが基本なのか」ということについて簡単に説明してきました。

ただ攻めがるたは「基本」ではあると思いますが、「絶対」ではありません!

必ず攻めなければいけないわけではありませんし、守ることが悪いことというわけではありません。

しかし、初心者はまず攻めの重要さを知り、そしてしっかりと攻める練習をすることが上達への近道だと私は思います。

まずはしっかりと基本の攻めがるたを覚え、そこから徐々に自分なりのスタイルを磨いていくといいと思います!